Proof by Induction – Uncanny Magazine
数学SF。臨死時の脳のスナップショットをとってVR空間的なところで故人に会える技術「Coda」があって、ただ基本的にそれは病院で最後のお別れを言うためであったり保険や遺言の場所を確認するためだけのものであるところ、テニュアがとれるか崖っぷちの数学者である主人公は同じく数学者だった父のCodaを買い取って持ち帰り、亡き父と二人、Coda内で未解決予想の証明に挑む。Coda内に再現された父は何も記憶できないので、会うたびに前回までの進捗を全部説明して……、という話。
正直数学パートはまったくわかっていないけど、作者は数学教師だそうなので、ある程度わかるひとにはわかるように書かれているのではないかと思われる。その積み上げがあった上で、タイトルにもなっている「帰納法」の比喩的な使い方が光る。要素としてそんなに新しいものはないと思うけれど、数学の証明というチャレンジと、父との関係という問題の重ね合わせが上手く、しっかり読み応えがあって良かった。
ところで本編にもまして面白かったのが、作者によるエッセイ。
Fiction University: How to Punch Readers in the Feels: A Case Study (janicehardy.com)
まあ創作論・自作解説なんですが、①わかりやすいゴールと無形で感情的で直接的には言及されないゴールを重ね合わせる ②複雑な解決 ③個人的な経験を生かす ことについて書かれていて、①なんかは正に読んでいて自分が読みとった良いポイント(数学の証明と父との関係)で、②は読んで気づかされたけど確かにそこが最後のさわやかさと余韻に繋がってるんですよね(終盤にツイストがあってもいいと若干思ったところはあったのですが、この問題設定だとこの結末が似合っているのだろうなとも思う)。そして③は純粋にエッセイとして良かったので原文を読んで欲しいです。