前半はこちら。
後半の中で特に好きだったのは、枯木枕「私はあなたの光の馬」、坂崎かおる「リトル・アーカイブス」。
淡中圏「冬の朝、出かける前に急いでセーターを着る話」
- 楽しい作品。
- リアリティラインの揺らし方が絶妙。右手が助けに来た経路の説明の下りがめちゃくちゃ好き。
- あと背筋の悪寒のネタもズルくて笑ってしまった。露骨過ぎる張り方が回収されると嬉しい!
もといもと「静かな隣人」
- シニカルな笑いが出る作品で良い。
- 理解不可能性を長いスケールで書いている。人類は最後まで何もわかってないところが良い。
苦草堅一「握り八光年」
- 楽しくて好き。寿司も天丼も好きなので。
- 「寿司を握れよ」のツッコミのところと大将接近レーダーの下りがめちゃくちゃ好き。
水町綜「星を打つ」
- 腐敗と蛞蝓の言葉ネタ面白かった。
- 完全に好みの問題で、説明の進み方や会話のテンションがちょっと自分の好みとは違うと感じた(スムーズに流れすぎと感じるというか)。
枯木枕「私はあなたの光の馬」
- えー、すごい。牽引力がすごい小説。切実。多分あと三回くらい読まないとわからない。読書会がしたい。
- 全体的に印象が強いけれど、リビングで枝を周りに並べているところから始まるシーンがかなり強烈に印象に残った。すごい。
十三不塔「火と火と火」
- このジャンル(?)の積み上げも生かしつつ火のイメージの使い方が巧みだなぁと思った。全体的に火、灰、燻りみたいなモチーフが文体や読み味にも連動しているように感じられて、入り込める。
- 検閲エンジンが依拠する経典を検閲するフィードバックの下りが設定として面白いと思ったのでそこもっと読みたいという気持ちにもなった。マジックリアリズム文体で書かれた料理レシピ本、気になりすぎる。
正井「朧木果樹園の軌跡」
- 言葉の指すものがわたしたちと違う系。
- それだけに言葉を大切にしている作品で、タイトルも良くて、表題作になるだけある。
武藤八葉「星はまだ旅の途中」
- オブジェクト調整のところの情報の出していくやり方は、これはどういう話なんだろうという興味を持たせてくれて面白かった。
- オチが自分には刺さらなかった。
巨大健造「新しいタロット」
- かっこいい!!!
- 吻の三、かっこよすぎるだろう。
- 席に着かされる「きみ」と同じく、読者も何が何だかわからないまま語りに引き込まれてしまう。その上で読者は「きみ」のこともわかっていなくて、それが闇の中で徐々に見えてくるのがともかく心をくすぐられる。
- 真似できない作風を持っている方で尊敬する。
坂崎かおる「リトル・アーカイブス」
- 本書全体を通じて一番完成度が高い小説だと思う。
- まずもう題材から、二足歩行ロボットの異質さとかわいらしさ、って(二足だけでもないが)鋭い時事ネタの感覚があって、軍事ロボットに対する兵士の愛着の話題となるともう少し真面目な(?)SF題材で、そこで父子の関係の話がまんなかにどーんとあって、謎と解決の鮮やかさが用意してあって、脇役にまで活き活きしたキャラクターの魅力があって、語りの切り替えの巧みさが構造上も大きな役割を持たせてあって、ええ、全部盛りじゃないかと思った。とても好きな作品だった。
稲田一声「人間が小説を書かなくなって」
- 実験小説的な取り組みで面白い。たぶんAI小説ツールとかで遊んだことがあるとより楽しめる。
- 単品としては「死者と修羅」「ほんとうによかった」の二つが好み。
- 最後のオチの仕掛けも小気味よい。
泡國桂「月の塔から飛び降りる」
- 知的好奇心と、発見を伝えたいという気持ちの話、と読んだ。
- そのテーマは好きで、主人公(?)がデータを分析して調べていってというところは楽しめた。一方で枠物語の外側というか、最後のシーンのパンチがもうちょっと欲しかった気持ちがあった(そこの、伝えたいという気持ち、が重要なような気がするので!)。