Kaguya Booksクラファン成立・創刊おめでとうございます。表紙がかわいい。
作品数が多いのでまず前半のメモ。前半の中で特に好きだったのは、千葉集「擬狐偽故」、佐伯真洋「かいじゅうたちのゆくところ」、勝山海百合「その笛みだりに吹くべからず」。
各作品への感想には一部ネタバレが含まれる。
三方行成「詐欺と免疫」
- 詐欺師の獄中語りだ。
- 詐欺と免疫のアナロジーは時事ネタ(?)でもあり組み合わせ方が上手い。
- 時空連続体ご都合すぎる感がある。でもだからこそ、この語り全体が詐欺だったらそっちの方が楽しいなみたいなことを思ったんだけれど、そういう読みを意図してはいなさそう?(末尾の引用があることによってフォーカスがそこじゃなさそうというか)
一階堂洋「偉業」
- 良い読み味。冒頭の語りの情報元がメールであることがわかって回収される構成が好き。
- ヨシダのキャラクターが読ませる。かっこいい。
- 結末についてロジックというかSF面の仕組みはちょっと難しくて一読ではついていけなかったのだけれど、光るのはめちゃくちゃ良い。
千葉集「擬狐偽故」
- 架空動物モノ。好き。イチオシ。
- 下のツイートで言えてなかったこと:持ち主の女との関係性が良い。「十九世紀だった。」とか「こうこう、と笑う」とか、日本語の質感がとても好き。
佐伯真洋「かいじゅうたちのゆくところ」
- すごく練られていてビジョンがある良い小説。好き。イチオシ。
- 「いつかあの夏へ」と設定(?)を共有しているけれど、「いつかあの夏へ」よりも「かいじゅうたちのゆくところ」のほうが自分は明らかに好きで、何が好きなのかと考えると描写の美しさとかその先の展望みたいなところなのかなと思う。単純な分量の差以上に詰まっているものがあると思った。
- 歴史、記憶を辿る丁寧な作りがあって、あったからこそ、ラストの「後世の人が〈情報層〉に潜ったとき」で二人の姿と未来の可能性を描く締めくくりがものすごく効いてくる。
- 複数回読みたい作品だし、さらに続きというか、この世界観で長く読みたい気持ちがある。
葦沢かもめ「心、ガラス壜の中の君へ」
- オレンジ『様』であったり、ボタニカルバッテリーの設定であったり、なによりクラゲのイメージであったりと、かわいらしい画の良さが随所に現れていて読んでいて楽しい作品。
- オチの小気味よさも良かった。
勝山海百合「その笛みだりに吹くべからず」
- 味が変わるのがものすごく好き。イチオシ。
- 後世の者が不用意に怪異を呼び出してしまうという型の怪談にSFの捻りを利かせている。人類がもういないのに人類の認識に住んでいたはずの怪異が出てくるとはどういうことなのか、みたいなところをさらりとやってくれるのが良く、ちょっと途中不穏感を出して、一旦戻してからの最後の怪談オチに至る作りがとても好みだった。
- 主人公の謎生命体の生態とかが一々書いてあるのも良い。
- 二人称語りにはどういう意味・意図があったんだろう。
原里実「バベル」
- 丁寧な心情描写だと思っていて、それ故に多分、読み手の波長を選ぶものがあり、自分の好みとはちょっとぴったりこなかったと思う。
- バベルの仕組みや提供主体(?)を特に書かないのは手法として面白いと思った。
- クライマックスのところの言語観(わたし自身の言葉もわからなくなる)がちょっとうまく読み取れなかった。
吉美駿一郎「盗まれた七五」
- リアルな題材、心情の描写でギリギリとくるものがあった。強度のある小説だと思った。
- コロナ禍の話題、エッセンシャルワーカーの話題、そこに入ってきた王というかなりファンタジックな設定と、エンリッチメントという恐ろしい解釈、という話題運びもものすごく上手いと思った。
- 題材からくるリアルな苦しさ、怖さ、居心地の悪さが強めなのが、正直自分の好きな小説の方向性ではないのだけれど、でも目を背けられないというか、好きな方向性じゃないんですといって逃げることを選べないというか、強力な作品だと思った。
佐々木倫「きつねのこんびに」
- かわいらしい話。
- 構成的には一度落ちたところから続いた気がしていて、あれ続くんだ、とちょっとなった。自分は前半部のオチ(美談じゃない!)が好き。
白川小六「湿地」
- ポストヒューマン。半鳥人も人狼もそれぞれの視点があり、それぞれのかわいさみたいなものも感じられる。
- 視点がパシパシするのにはデメリットも感じて、どこに集中して読むべきなのかがちょっとわかりにくかった。両方を見せて悲劇感というかままならなさが表現されているということだろうか。
宗方涼「声に乗せて」
- 理想の発声を実現するデバイスが、喉というより身体に負担をかけるあたり、ガジェットの設定が面白かった。使われ方が悪用も含め広がっていく様も良かった。
- ただそれを重ねていって最後にもう一発何かが欲しいという印象もあった。
大竹竜平「キョムくんと一緒」
- 良い意味で読み終わったときに「は?」って声が出た。
- 前半部で瑛さん周りに微かな違和感があるところ、ものすごく巧妙ですよね。それを忘れてなんかちょっととぼけた謎存在SFでそのまま流そうっていうことかなと思わせて最後に爆発オチみたいにしてくるのはズルい。
- 「瑛」:水晶などの美しい透明な玉。なるほど?
赤坂パトリシア「くいのないくに」
- かっこいいことは間違いないけれど、難しくてうまく読めなかったので他の人の感想を聞いてみたい気がする。
- 多分なにか単純な比喩に嵌めてしまうのではなくて、直截に(?)読むべきなのだろうか、とか考えたのですが、難しい。
なんか読書会とかしたくなる作品が多い。後半も読んだら感想をメモると思います。