雨月物語の魅力

※このエントリはPR記事です

 雨月物語という作品がある。

 江戸時代に上田秋成という人によって書かれた怪異小説9編からなり、近世日本文学を代表する作品だと言われることも多い。しかし、じゃあ他に近世日本文学って何があるの、と言われると、ぱっと答えが出てこないという人も多いと思う。例えばこういうWikipediaのリストを見ると、フィクションの有名なタイトルとしては、井原西鶴『好色一代男』、近松門左衛門『曽根崎心中』、十返舎一九『東海道中膝栗毛』、曲亭馬琴『南総里見八犬伝』などなど、ああ文学史で名前が出てきたねという作品はたくさんあり、ちゃんと勉強した人はあらすじとか言えるだろうが、読んだことあるかと言われるとまあ読んだことなかったりする。どれもある程度の長さはあり、現代人からするととっつきにくさが無いとは言えない。

 それと比べると、雨月物語のハードルは低い。部分的にというのも含めれば読んだことがあるという人は比較的多いと思うし、読んだことがない人も、今から読んでみることはそう難しくない。

 まず何より短編集の形式なので、単純に手を付けやすい。全作品の原文と現代語訳と注釈・解説を収録して、やっと薄めの文庫本くらいのボリュームになる(この記事の最後におすすめ書誌情報あり)。原文や注釈を飛ばしてしまって現代語訳だけ読むならすぐ読み終わるだろう。

 そしてこちらがより重要なのだが、仮に雨月物語そのものを読んだことがない人であっても、その系譜に連なる何らかの作品にすでに触れている可能性がそれなりにある。だから内容的にも、とっつきやすいはずなのである。

 これについて説明する前に、先に怪異小説という言葉について書いておく。現代で怪異というと、妖怪とか、幽霊的なものとか、怖い話的な印象がなくもないと思うが、ここで言う怪異というのは、もっと広い意味で普通でないもの、尋常でないもの、不可思議なもの、というイメージの言葉だ。だから怪異小説というのも、不思議な事が起こる話、という程度に捉えて構わない。字面は似ているが、怪談とは若干異なるので、ホラー興味ないんだよねと思って避けている人がもしいたら、そんなことはないと知ってもらいたい(逆に、雨月物語にはホラー調の作品もあるから、怪談好きの需要にも答えられよう)。有名な現代のエンタメ作品で言えば、西尾維新の『物語シリーズ』で「怪異」という言葉が超便利に多用されるけれども、あれくらいざっくり広い意味で捉えておけばいいと思う。そういえば雨月物語も物語と付いているし、上田秋成は他に春雨物語とかますらを物語とか書いているし、江戸の西尾維新だったのかもしれない。ウィーンのキダ・タローみたいな話だが。

 と、物語シリーズの話で脱線したけれど、意外とこれが脱線ではなく、つまり「怪異小説の系譜は、現代のエンタメ作品まで続いている」という強引な主張にもっていくことが可能だと思う。話を戻して、なぜ多くの人が雨月物語の系譜に連なる何らかの作品にすでに触れている可能性があるかといえば、雨月物語という作品が、後にも先にも日本の怪異小説のキーポイントであろうと思うからだ。

 雨月物語には9編の怪異小説が収録されているわけだけれども、そのどれもが、上田秋成がゼロから書いたというものではない。むしろ、膨大な「元ネタ」の上に構築されている。例えば一作目の『白峯』は、荒ぶる怨霊・崇徳院と強キャラ僧侶の西行が繰り広げる異能バトル私小説なのだが(?)、『撰集抄』や『保元物語』などの先行作品を典拠としつつ、上田秋成の演出により異能バトル私小説としての強度が高まっている。また、「怨霊が出てきて自らの悪事を語り、これからなす復讐を予言する」という、ある種の「怨霊モノの型」は、以降の創作にも強く継承されていく(別に上田秋成が生み出した型というわけではないのだが)。他の作品もいずれも、原型となる物語が中国白話小説などに求められ、そこに各種の古典を入れ込んで作品が完成されている。素材となっている物語群にせよ、あるいはこの雨月物語に影響を受けた作品群にせよ、ともかく膨大な範囲に広がりがある。だからたとえ雨月物語を読んだことがない人でも、雨月物語を読むと、「この展開どこかで見たな」「この言い回し定番っぽいな」「このキャラ像、知ってる気がする」という感覚がきっとあるはずだ。それは受験勉強で読んだ古文や漢文の作品の1パーツかもしれないし、『世にも奇妙な物語』のようなエンタメ作品かもしれないし、2chの都市伝説コピペかもしれない。だから貴方は、雨月物語をすでに読んでいる。

 さて、せっかくなので残り8編についても強引な解釈で紹介しておこうと思う。『菊花の約』は、友情が強引に距離を超越する話。ファンタジーっぽい。BL要素あり(?)。『浅茅が宿』はずっとずっとずっと待っていてくれる健気ヒロインの話。いいよね……。『夢応の鯉魚』は9編の中では一番ほのぼの感があるが、絵が巧すぎるとそこまでいける、という話。ある意味、天才の超越性を描いており、ちょっとメフィスト作家っぽい(?)。『仏法僧』は逆で、俗物の目線から「体験を語る」という体裁で怪異を描く、実話型都市伝説。知り合いが経験した話なんだけど……というやつ。『吉備津の釜』は嫉妬に狂った女の怪談。部屋の中に籠もって、外から呼びかけられても決して応えてはいけない、という設定は、現代の都市伝説でも頻繁に用いられている。『蛇性の淫』は怪異に魅入られてしまった男の話で、これまた現代怪談にも影響していそうな作品。真女児は雨月物語最凶ヒロイン。『青頭巾』は禅Tuee作品。寺生まれのTさんっぽい。ラストを飾る『貧福論』は異色の経済小説。自己啓発本として電車に広告が出ていてもおかしくない。

 並べてみるに、やはり雨月物語の各作品というのは、現代に通ずる題材、演出、キャラクターをもっていて、これを二次創作してみるというのはすごく面白い試みだと思う。と、いうことは前からなんとなく考えていたのだが、まあそんなことは他にも沢山の人が考えており、雨月物語の二次創作やメディアミックスというのは結構たくさん存在している。じゃあオリジナル要素として何を導入するのが良いだろうか、と考えたときに、思いついたのがSFだった。SFはなんとでも組める。

 というわけで、雨月物語をSF的に再解釈する、怪異×SF小説合同誌で、2019年5月6日 文学フリマ東京に参加します。詳細は今後宣伝していくので、乞うご期待!!

(追記)Webカタログが公開されました! スペースはス-40!

(追記2)特設サイトにて、参加作品のあらすじを公開中!

 

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↑本企画にあたっての再読に使っています。Kindle版もあり手頃で良い。

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↑タイトルの通り雨月物語以外も収録した分厚い本ですが、雨月物語のパートをあの円城塔先生が現代語訳。序での遊び心はさすがです。


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