【感想】『読みたい夜に Vol.1 創刊号』Y.田中崖/峰庭梟/野尻暉/一夜文庫

 文学フリマ東京37にて入手。なお、文学フリマ東京37にてVol.0.5創刊準備号、Vol.2 秋灯号も購入させていただいています。

 文学フリマ東京38が終わった今になって感想を書こうとしているというのが申し訳ないのですが、読むこと自体が後に回されていたのではなく(単に積んである本もまだあり、なかなか厳しい)、一読したけどなんとなく感想がうまく書けそうになくて書けていませんでした。というのは悪い意味では全くなくて、このZINEの感想を明晰な言葉で書くのは難しいというか、しっかりした文章に感想がまとまらずにふわふわっとした状態で考えながらそのまま眠るのにあっているというか、まさに「おやすみ前のゆったり文芸ZINE」の雰囲気になっていて良いですよねという……一言でいうと雰囲気が好きですというだけになってしまって一行で感想が終わってしまう、というので手が動き出していませんでした。でも文学フリマ東京38に参加してやっぱり感想は書いた方がいいと思ったので書きます。

「夜に・終電の忘れ物」Y.田中崖

 得体の知れない終電で忘れ物の一冊の本を読もうとする話。疲れ切った終電のどろどろした感じがよく書かれていて、残業後に読むと一抹の心地よさを含んだ疲弊に溺れることができる。その上で結末にちょっと変化球が来た感じがしてぞわっと楽しい。

「瞬光集 月」峰庭梟

 140字(多分)小説と短歌による連作。月について。プロフィールに既刊作品集について「童話のような寓話のような詩のような」とあるけれど、はじめ読んだ時にはちょうどそのような印象だった。月の見せている表情がどれも違うような同じような、連作としての共通具合がちょうどいい。第十三夜が好き。

「夢の残滓」一夜文庫

 弁当屋で売られていた生きた子豚の丸焼きの夢の話。淡々と書かれているけれど夢の中のぼうっとした感じや、それでいて「焼豚ちゃん」のかわいらしさ(というか、夢を見ている人がかわいらしいと思っているという感情)がよく伝わってくるのがふしぎだった。でもこういう、じんわりと確かな感情を抱く夢って、なんか見たことがあるよね、という実感がある。

「夜の深呼吸」野尻暉

 ちゃんとした大人になれない「わたし」が夜や流行や依存について語る。夜ってこういう感じだし、こういうことを考えてしまう時間がある、というのは多かれ少なかれみんな思っている……のかどうかわからないが、少なくとも自分はある程度は思う。「これで終わりみたいな顔をしているくせに、いつか夜も終わっていくということだ」の一文にハッとさせられた。夜になっちゃったし、終わっちゃったし、と夜に浸っていられる時間から、それでも朝が来てしまうし来てくれるということへの切り替わりが、この巻末に配されていることに、憂鬱と同時に嬉しくなった。

タイトルとURLをコピーしました