私が参加している文芸同人・ねじれ双角錐群が11月23日の文学フリマ東京にて新刊を出します。
今年のねじれ双角錐群のテーマは『群れ』。タイトル回収……タイトル回収じゃないか!!!
最高のテーマだと決まった日に思い、翌朝から頭を抱えることになりましたが、しかし原稿を書き終えることには群れへの感受性が研ぎ澄まされた結果か、考えてみれば群れSFというのはSFの中でもすでに確立された一分野だなと思うようになり、たとえば自分が比較的最近読んだ小説の範囲だけですら円城塔『イグノラムス・イグノラビムス』とか飛浩隆『はるかな響き Ein leiser Tone』なんか完全に群れSFなわけであり、それら豊富な先行作品の群れに追いつき、打倒していくという高い志を掲げてできた合同誌『無花果の断面』にご期待ください。
以下、ネタバレを含まない宣伝感想。
『教室』石井僚一
AはBのまるい横顔を/まっすぐ見つめている/Bは頬杖をつきながら/窓の外をぼんやりと眺めている――教室の一景をAからZまでの視点を通して淡々と描く小さくて寂しげな物語詩。
群れ、というと集団、そしてみんなが経験している集団生活といえば教室になりますよね。現代に生きる誰しもが持っている群れ経験を思い出させてくれる、群れの愉快さと寂しさがつまった詩。そう、詩なんですよ!
『マーズ・エクリプス』笹帽子
火協連第三開発区の管理官を務める桜井あかりは、三年前の事故で失った情報予言知能を再構成し、地火間無遅延通信を稼働させる。だがその瞬間ネットワークに流れ込んできたのは、彼女自身の死の証明だった。距離と時間を超越する、宇宙移民分散型歴史記述コンピューティングSF。
拙作。冒頭の見た目をTwitterで宣伝したやつがあるのでそれも見てください。群れを「歴史を共有している集団」として捉えましたが、果たして群れSFになれたのでしょうか。なお、紹介文にも出てくる情報予言知能というキーワードは過去作品で使ったことがある設定ですが、続編などではなく別の作品世界です。
『大勢なので』murashit
っていうか無限なので。
タイトルと、紹介文がずるいでしょ(季語なし)。こんなのネタバレなしで何も説明できないじゃないか!
無限らしいです。無限ってこわいよね。
『分散する風景』小林貫
いずれ訪れる母の死を想像して夜泣きしたわたしは、代替母の死をもって心を慣らすことに思い当たる。三十代も半ばに差しかかり黒ぐろ冴えわたる不安の底に、不可抗に沈んでいく。
短めなんですがめちゃめちゃパワーがある作品です。母親っていうのは、かけがえのない、一般的には唯一性を持つもののはずで、それだけにその死の重大性があるわけじゃないですか。そりゃ想像したら泣いちゃうよ。でもそれに対して代替母が来る。群れSFの新地平を切り開く作品。心して読め。
『電子蝗害の夜』三好景
地球上の広範な地域に突如として発生した動物の群れの異常行動、通称《群禍》の背後には、魚群探知師と呼ばれる高解像度ソナーを携えた言語学者たちの姿があった。群れによって記述される新言語で書かれた世界初の小説作品、待望の全訳。
生物の群れというのは、蝗害に代表されるように時に暴力的で破滅的な結果をもたらすんだけれども、その単なる個体の総和を超えたすさまじい力に惹かれてしまうところもあって。そのような群れのパワーを感じさせる本格群れSF。群れによって記述される言語、などというハードな設定から何が始まるのか。見届けろ。
『なまえ』鴻上怜
不確かな恋の予感が少女の心をゆらし、知己の女は若き日々を想う。伊豆の離島の凪いだ空気のなか交わされる、いくつかのささめきこと。
タイトルとあらすじ文がもう既に良いよね……。この作品は読んだとき、シンプルながら自分には真似できない構成だと思って感動してしまった。何食べたらこれ書けるんですか? 合同誌のラストを飾るに相応しい最高の読後感を与えてくれます。良い小説です。
ねじれ双角錐群『無花果の断面』は2021年11月23日開催の文学フリマ東京 オ-24にて頒布! 全自動ムー大陸さんの素晴らしい表紙が目印です!! 自分も会場にいたりいなかったりします。
文学フリマ東京の開催にあたっては、検温、マスクの着用、接触確認アプリの導入などの感染症対策への協力が呼びかけられていますので、来場前に必ずチェックをお願いいたします(来場者向け案内ページはこちら)。クラスターという単語にすっかり悪いイメージがついてしまった昨今ですが、コロナを倒し、「群れ」を私たちの手に取り戻していきましょう!
なお、例によってBOOTHでの通販も実施予定とのことです! 遠方の方などは是非ご活用下さい!