※本来の表記は「野﨑まど」(﨑のつくりの上は立)ですが、本記事では「野崎まど」と略記させていただきます
この記事について
【要約】すごい力を持った女の子に蹂躙されたい
この度「メディアワークス文庫創刊10周年&野崎まどデビュー10周年 特別企画」により新装版が刊行されることとなった、野崎まどのメディアワークス文庫における以下の6作品を改めて紹介するレビュー記事です。今回の前編はネタバレなしの布教用です。そのうち後編で改めてネタバレありで感想と考察を書き直そうと思います。
- [映]アムリタ
- 舞面真面とお面の女
- 死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~
- 小説家の作り方
- パーフェクトフレンド
- 2
【旧版】
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【新装版】
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どんな小説なのか?
上記のメディアワークス文庫の記事では「野崎まど異彩ミステリ6作」と表現されており、一応ミステリという枠に……いや収まらないと思います。ミステリの定義を「謎を解く話」くらいに拡大すれば、収まります。その程度です。
自分なりにこの6作の特徴を挙げながら魅力を紹介したいと思います。
超越的な存在が登場する
たとえば「[映]アムリタ」のあらすじは以下の通り。
自主制作映画に参加することになった芸大生の二見遭一。その映画は天才と噂される最原最早の監督作品だった。彼女のコンテは二見を魅了し、恐るべきことに二日以上もの間読み続けさせてしまうほどであった。二見はその後、自分が死んだ最原の恋人の代役であることを知るものの、彼女が撮る映画、そして彼女自身への興味が先立ち、次第に撮影へとのめりこんでいく。
[映]アムリタ – メディアワークス文庫公式サイトより
しかし、映画が完成したとき、最原は謎の失踪を遂げる。ある医大生から最原の作る映像の秘密を知らされた二見は、彼女の本当の目的を推理し、それに挑もうとするが――。
これは、「映画でどんなことでもできる」天才美少女と一緒に映画を作る話です。この天才監督、最原最早が最強ヒロインなわけです。「二日間以上もの間読み続けさせてしまう」とか書いてありますが、比喩的な話ではなくて実際に二日間以上連続でであり、そういう非現実的な力が出てきてしまう作風です。
同様に、他の作品にもヤバい奴が必ず登場します。「舞面真面とお面の女」は、何の動物かわからないお面を身につけた謎の中学生と戯れる話です。「死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~」は、永遠の命を持つ生徒が登場し、しかしそれが殺されてしまう話です。「小説家の作り方」は、”この世で一番面白い小説”を思いついてしまったと主張する絶世の美女に小説の書き方を教える作家の話です。「パーフェクトフレンド」は天才早熟小学生が友達の作り方を研究し、それを解明するに至る話です。「2」は、すべての創作の極致を目指す話です。
一連の作品はすべて現実世界の現代日本(というか、基本的に井の頭線沿線エリア)を舞台にしていますが、上記の通りぶっ飛んだ登場人物が必ず出てきてしまい、主人公や読者はそれに翻弄されることになります。そういうローファンタジー的な想像力が好きな人にはおすすめできます。僕は好きです。
そして、上記で並べた一連の「超越的な存在」は、お察しの通り、大体は美少女です。めっちゃすごい力をもったかわいい女の子に蹂躙されたいと思いませんか? 僕は思います。あなたも思うなら今すぐ6冊とも買ってください。新装版とか待ってる場合じゃないから買え。この先の記事は別に読まなくていいです。
謎解き要素あり(ミスリード、どんでん返し付き)
この要素をしてメディアワークスは苦肉の策で「異彩ミステリ」と表現したのだと思いますが、基本的に謎や不思議があり、最終的にはそれに答えが出されます。しかし、そのトリックは必ずしもフェアなものではなく、ミスリードやどんでん返しの驚きを楽しむエンターテイメントです。特にどんでん返し部分に野崎まどの特徴があり、6作全てにおいて(いやそれどころかこのシリーズ以外の作品においても)オチに関してはほぼ同一の構造、型、様式美が取られていると思います。それが癖になってしまう。凄まじいオチを叩きつけられて笑ってしまうのが好きなタイプの人にはおすすめできます。僕は好きです。
余談ですが、野崎まどが脚本を担当したTVアニメ「正解するカド」ではまさにこのラストの無茶苦茶などんでん返し(?)が炸裂してしまい、野崎まど未経験の視聴者を呆然とさせてしまったようでした。真面目にファーストコンタクトを考察する社会派アニメっぽい宣伝をして擬態したのが裏目に出たというか狙い通りなんだと思います。オチでやりたいことがすべてなので、そこに至るまでの細かいところが現実に即してないとかで気になってしまう人には向かないかもしれない。
会話文を多用し読書の負荷を極限まで引き下げている
これは合わない人もいるでしょうが、ラノベ的というか、ノベルゲー的というか、地の文は非常に簡素で短く、会話文のテンポの良さに全振りされており、読みやすさ重視の演出がなされています。
そもそも野崎まどのデビュー作である「[映]アムリタ 」は第一回メディアワークス文庫賞の受賞作にして創刊ラインナップの一冊です。メディアワークス文庫は「近年の小説作品のジャンルの広がりを受け、現在刊行されているノベルレーベル「電撃文庫」に収まりきらない作品を世に送り出すべく創刊される新たな文庫レーベル」という位置づけで作られたそうですので、まあざっくり電撃文庫で大きくなったオタク向けというか、「表紙がラノベっぽいが本文に挿絵はないあのジャンル」だと思ってもらえば良いでしょう。
タフな読書をしたい方には向きませんが、別にそういう硬派な思想を持ってない方にはおすすめです。僕は持ってません。
天丼、言葉遊び、ボケツッコミで畳み掛けるギャグ
会話文多用と近い話ですが、だいたい軽妙な小ネタがずんずんでてきます。なんか題材がシリアスなときでもギャグが入ってて笑うし、ボケとツッコミに漫才的な感覚があります。天丼も多くて好きです。繰り返されるだけで笑ってしまう脳の方にはおすすめです。僕はそういう脳です。
ちなみに野崎まどがギャグ短編だけを書き連ねた「独創短編シリーズ 野崎まど劇場」という作品もあり、こちらも面白いです。「家から持ってきた角」の画像がtwitterで流行ったりしましたね。さすがにメディアワークス文庫6作品では画像ネタは封印されていますが、ノリはそのレベルです。
6冊でシリーズ? どれから読めばいいの?
シリーズかと言うとそうではないのですが、刊行順に読むことを強く推奨します。
もう少し細かいことを言うと、「[映]アムリタ」「舞面真面とお面の女」「死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~」「小説家の作り方」までは完全に独立した作品で、相互に関係は一切ないため、実質どれから読んでも問題ありません。しかし、「パーフェクトフレンド」で助走をつけて、「2」ではそれまでの作品のキャラクターが再登場するので、絶対に「2」を先に読んではいけません。
このことは「2」の公式の作品紹介にはイマイチ明記されていません。ネタバレを避けるためにそのようにしているのだろうとは思うのですが、ネタバレよりも知らずに「2」を先に読んでしまうことのほうが悲劇だと思うので、あえてここに書きます。刊行順に読んでください。それにより初めて、野崎まどが「2」で目指した創作の到達点を味わうことができるはずです。それにしても「2」なんて題名がよく許されたな。
後編
ネタバレありの後編はこちら