この度、文芸同人サークル〈ストレンジ・フィクションズ〉の番外編的オリジナル百合小説合同シリーズ第三弾『留年百合アンソロジー ダブリナーズ』に短編小説を寄稿いたしました。
留年×百合をテーマとする小説8編を収録する本書は、2024年5月19日(日)文学フリマ東京38にて販売予定。また、通販予約も開始しています(文フリ後に発送予定)。各種情報は以下のストレンジ・フィクションズの告知ページをチェックだ!
私は、「全然そうは見えません」という短編小説で参加しております。留年して二回目の大学一年生を始めようとする幸浦さくらが、語学クラスで出会った望月渚との交流を経て、留年の原因と向き合うよすがを得る、それと同時に渚のほうも、さくらに対して思うところがあった、という話です。なんと、巻頭に置いていただきました。読んでいただければ嬉しいです。
他の作品もなんというかこう……念が籠もっている作品ばかりです!(そのうちに感想記事を書きます!)
素晴らしい表紙イラストは、『またぞろ。』の幌田先生。この、どう見ても留年百合が表現されている表紙、すごすぎると思います。これ明らかに留年してるじゃないですか(?)。ドラマがある。この表紙イラストの合同誌に参加できて光栄です。なお、私は『またぞろ。』の詩季さんが好きです。あと芝山充希と申す者も好きです。(『またぞろ。』がどんな作品かご存じない? それならななめのさんのブログをどうぞ)
ここまで読んでいただければもう告知としては完了です。あとはもう買って読んでください。頼む。
ここから、今回小説を書く際に考えたことを少し書き残します。おれは、蛇に足がついているのもかっこいいと思う。
本企画に最初お誘いをいただいた際、反射的にこう言いました。
自分は留年していないし、その危機にあった経験もありません。それでも「留年は実績ではなく心」との深い言葉をいただき参加させていただく運びとなり、それは大変ありがたいのですが(ありがたいです。合同誌に参加できるのは本当にありがたいです)、しかし、じゃあ実績はともかくとしてお前は留年の心を識っているのか、と言われると、やはりそんなに自信はない。なんでそんなことでくよくよするかというと、今回小説を書くにあたって考えていた、いや割といつも考える問題に関係するところであり、どういう問題かといえば、まあこれ一言でいうと色んなニュアンスが抜け落ちてしまうことが懸念されるのですが、という前置きをしつつ一言でいうと、当事者性の問題です。言うまでもなく、当事者じゃないと書いてはいけないなどというルールはどこにも存在せず、むしろそういったものを書くことができる、想像することができることこそ創作だということは、もう百億回言われています。一方で当事者というものに対して、当事者が読者となる可能性がある以上、いやそうでなくともこの世界に当事者が存在する以上、丁寧さやリスペクトなしに描くことはあり得ないという話も、これまた千億回言われています。ところで当事者とは何か、というと、そもそもここでいう当事者というのは特定のなにか属性を持っている人ということなのでしょうが、特定の属性を持っているときにそこに何らかの統計的な傾向や特徴があるかどうか、まずそれも別に所与の前提じゃないんだけど、ここではとりあえず傾向や特徴があったとして、あったからといってそれが絶対的な決めつけに繋がってはいけないのであるし、そうだとすると「当事者」としてひとくくりに話し始めたところに何か見逃しがなかったか気になってきたりとか、あるいはまた、一個人を見てもたくさんの属性、たくさんの当事者性が重なってその個人を形作っているのであるから、それを一つの当事者性でもって切り取ることによって何かを落としてしまわないのだろうか、みたいなことが、さて何回言われたか、数えてみてもいいでしょう。……と、小説を書いていると堂々巡りに思うところであり、それが今回は留年百合です。留年にしても百合にしても、私には、そういうことを強く考えさせられる題材なのでした。
そういうのに対して、少し違う角度から取り組む、というのも一つ立派な選択肢です。全然別に、ズルいとかでもない。ただ、〈ストレンジ・フィクションズ〉さんの百合小説企画に参加させていただいた過去二回いずれも、お題に対してはちょっとひねっていたところがあって(「よふかし百合」は素直に考えたら逢瀬の夜になりそうなところ夜が明けない特殊組織だったし、「声百合」は素直に考えたら想い人の声になりそうなところ声の怪異の話だった)、「なんか……この小説……変……?」ばかりやっていてもなというところもあり、そうすると今回は正面から行きたいな、と思っていました。結果、自分なりには留年百合について考えた結果の話を書くことになって、正直怖い気持ちもありますが、ここは堂々と決めポーズをしようと思います。それではどうぞよろしくお願いいたします。