近世日本文学を代表する怪異小説
『雨月物語』の9編を
SF的視点から再解釈する小説合同誌
計算資源の氾濫の時代が終わり、現代社格制度によって超高度AIが管理される日本。情報処理安全確保支援士(通称・登録セキスペ)である西行のもとに舞い込んだ依頼は、京都御所へと繰り返される五部大乗経DDoS攻撃の阻止だった。AIが抱く恨みとは、こころとは何なのか? 新感覚サイバーセキュリティパンク小説。
量子力学と相対性理論を結びつけたのは物語理論だった――古典として強固な因果を育んできた『雨月物語』の舞台に大統一理論の帰結として顕れる時空飛び地への没入は、やがて赤穴宗右衛門の幽霊を自らの復讐へと駆り立てる。肥えゆく因果が語り手をも巻き込みねじれる、蠱惑の可能世界SF。
不法侵入した空き巣を待ち構えていたのは、出刃包丁を装備したロボット掃除機だった。逃げようとするが窓が開かない。閉じ込められたのだ。かくして空き巣は、二台の武装ロボット掃除機とスマートスピーカー、ペットの蟹たちとその家で暮らすようになる。どうやらみんなで家主の帰宅を待っているようで――
人がより機械に近しい時代。増殖する都市・環街にて、はみ出し者の賞金稼ぎ三人は、大型工作機用給電機の異常終了から電気泥棒の存在を嗅ぎつける。予想出現区域で彼らが目にしたのは、巨大な金色の魚だった。魚を捕まえようと四苦八苦しているところに、警備局の職員まで登場。三人の運命や如何に。
ある日、女子校生のユメの元に送られてきた謎のデバイス。機械のゴーグルと厳ついヘッドホン。送り主であるユタカは、それを持って高野山へ来いと伝えて来た。疑念を抱きながらも高野山へ向かうユメ。何故なら、ユタカという人間は既に――。幽世と現世の境界が揺らぐ霊場に、boo-pow-sowの鳴き声が響き渡る。
あなたの適切な結婚相手をなぜかお釜は知っている。AIが隆興を極めた世界。国家主導の推薦配偶者制度により結婚相手を提示された、三十三歳無職の正太郎は、巨大なお釜型AIの導きにより磯良との結婚に踏み切った。AIに100パーセントの幸せを約束された結婚生活。しかしそれは少しずつ狂い始める。
法海和尚により鉄鉢の中に封じられた淫蕩な蛇の怪異、真女児。一切が無である鉄鉢の中、彼女は豊雄への恨みと幻覚に苛まれる。長い長い時が流れた末に彼女の封印を解いたのは、人類文明崩壊後の地球を探査する異星人だった。真女児は異星人を誘惑し、籠絡を試みるが――。
無実の罪で虜囚となった農夫シューホフは、トラックにはねられて中世日本の山奥へと迷いこんでしまう。そこで出会ったのは好色な人妻、胡乱な旅の禅僧、屍肉を喰らう魔性。果たしてシューホフは何を思い、何を為すのか?
あらゆる物質、あらゆる情報が希少性を失った時代、心さえも蜘蛛の巣のように通じ合う社会で、唯一希少となったのは人間の強い想いであった。人類はかつての貨幣のごとく情念をやりとりし、秘めやかに摂取している。そんな情念を日夜集めては溜めこむ、とある蒐集家のもとに訪れたのは……。
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