03_作品

横断者

スクランブル交差点では、歩行者信号が青になっている時間が普通より長い気がする。スクランブルだと歩行者にとっては青になるまでに時間がかかるからだろうか。だが、「長い間待たせたので、渡る時間も長くしました」と言われて歩行者の持ち時間が長くなって...
01_読感

【感想】『罪と罰』 ドストエフスキー

いやあ、この小説、ヤバいですね。二回目の通読でしたが、相当なものがぶつかってきます。後半なんて、読んでいると本当に、ラスコーリニコフと一緒に熱病におかされているみたいになってくるのです。 すごい小説になればなるほど、ここに書く事が浮かばなく...
03_作品

拳銃の神様

男が僕に拳銃を向けていた。 「な、なんですか」 「拳銃の神様だ。いいから入れなさい」と男がマスク越しに言う。  マスクだけじゃない。サングラスにグレーのハンチング帽、服は背広の上にコートで黒ずくめ、危ない匂いがぷんぷんする。確認もせずにドア...
01_読感

【感想】『旅をする木』 星野道夫

かなり長い事ちょびちょび読んで、やっと最後までいきました。と言っても、短編のエッセイ集なので、別にバラバラに読んでも困るものではありません。というか、だからこそ読むのがゆっくりになってしまったのですが。 星野さんは文章もうまいですね。優しい...
01_読感

【感想】『ねじまき鳥クロニクル』 村上春樹

再読です。 前に一度図書館で読んでおもしろかったのでいずれもう一度読みたいと思ってたんです。 前回読んだときは長過ぎて構成の破綻感がちょっとしましたが、一応全部の筋を知っている状態でもう一度読むと、よくできた話だなという感じです。 村上春樹...
01_読感

【感想】『森と氷河と鯨 ワタリガラスの伝説を求めて』 星野道夫

川野さんに薦めていただいた「旅をする木」は学校の図書室に入っていなかった(今度リクエストして買ってもらおうと思ってますが)ので、入っていたものを借りて読んでみました。 星野道夫さんは、シベリアで就寝中にテントをヒグマに襲われ亡くなりました。...
03_作品

エスパーモノローグ

私は超能力者だ。読心術もできるし瞬間移動もできる。スプーンはいとも簡単に曲がる。  私は毎朝6時きっかりに清々しく目覚める。というのも、私は毎日寝る前に「私は明日の朝6時に清々しく目覚める」と予言しているからだ。私の予言は外れない。目を覚ま...
03_作品

4代目、4台目

僕の体はぶっ飛んでくるくると回る。漫画のように回転し叩き付けられ、ずうんと重いものが体の中でガラガラいって、白いワンボックスが走り去る。当て逃げ、という言葉が浮かび、いや、ひき逃げだ。  左足からとくとくと流れる温かい血で、ズボンが台無しで...
03_作品

前兆

雄一は晴れた朝の静かなあぜ道が好きだ。澄んだ空気の中でそこに立っていると体がふっと軽くなるような感じがする。だから朝は学校に早く行く。でも今朝はそれでも一番乗りではなく、教室には綾子がいた。とにかく誰かがいればよかった。綾子は自分の席でうつ...
03_作品

発明品ナンバー21

「さあ、実際に試そうではないか」と博士。 「ええ、はやく試してみましょう」と助手。  博士と助手は苦心の末、一年をかけてこの発明品を作りあげた。『何でも見える眼鏡』である。 「しかしせっかくだから、かけたとき何が見えるか先に考えてみようじゃ...
03_作品

定例閣議

食糧大臣は、早めに首相官邸閣議室に入っていた。壁の時計では、定例閣議まで十五分。  閣議室の大臣たちは、資料を見直している者、メモを書いている者、くしで身だしなみを整えている者、氷結肉をかんでいる者など様々。氷結肉というのは、アザラシの肉を...
03_作品

久しぶり

夢の中で、僕は少年だった。正確には少年に戻っていた。12歳位で、分厚くて固い茶色のコートを着て、毛糸の手袋をして毛糸の帽子をかぶっていた。つまり季節は冬だった。たぶん僕の夢の中だからだろう、冬は僕の考える冬らしい冬だった。それは、簡単にいっ...
03_作品

所有者

僕は風呂から上がると、上半身裸のまま、冷蔵庫で冷やしておいた缶ビールを飲みだした。缶ビールなんてものは僕にとっては冷たければそれでいい。その代わり僕は野菜についてはこだわるほうで、そのときかじっていたキュウリも、信頼している産地直送だった。...